ハル君は、最後まで言わせてくれなかった。
私の口元を人差し指で押さえて、
「彼氏と仲良くな」
そう言って、柔らかな笑顔を浮かべた。
だけど、何だかその言葉と表情からは、少し悲しさが見え隠れしているような気がして。
「ちょっ……、紗夜香!?」
「珍しいね、ハル君が慌てるなんて」
クスクスと笑いながら、ギュッとハル君を抱きしめた。
自分でも信じられないよ。
周りにはまだ人もいるし、こんな大胆な行動をとるなんて。
だけど、人目も気にならなくなるぐらい、今、ハル君を抱きしめたくなるほど愛おしく思ってしまったんだ。
ピッタリとくっついたハル君からは、次第に早くなっていく胸の鼓動が伝わってきて、私の鼓動と重なる。
壊れそうなぐらい激しくドキドキしているのに、こうしていると凄く落ち着く。
「彼氏とは別れた」
そう言えば、ハル君には言ってなかったね。
彼氏がいるのに他の人に告白しようとした私のこと、少し軽蔑しちゃったかな。
「ハル君のこと、好きになっちゃったから」
だけどね、それでもやっぱり伝えられずにはいられなかった。
溢れだした気持ちを、言葉にして伝えたかったの。
おかしいよね、さっきまではあんなに迷っていたのに。
「紗夜香……」
少し体を離して、顔を上げてハル君を見つめる。
「“付き合って”なんて言わない。だけど、また会ってくれる?」
人もまばらで、閉園を知らせる音楽が鳴り響く、私とハル君が出逢った園内。
私たちは、もう一度会う約束をした。
五年後、またこの場所で。
その時は一緒にお酒でも飲みに行って、「あの頃は子どもっだったなー」なんて、笑い話ができたらいいな。
また、絶対会えるなんて保障はない、だけど……
信じてる。
また会えるよね、ハル君――……。


