二人の声が同時に重なって、
「紗夜香からどうぞ」
「ううん、私の話は大したことないから、先にどうぞ!」
「いや、そっちから」
「ううん、ハル君から」
お互い譲りあって目を合わせて、どちらからともなく笑いが零れた。
少しだけ、場の空気が和んで、心が落ち着いてくる。
「そういえば、初めて会った時もこんなことあったな」
「私も今思い出してた! あれでしょ、ペットボトル」
先に飲むか後に飲むか、そんな単純なやりとり。
たった数ヶ月前のことなのに、すごく懐かしく感じる。
そっか。
ハル君もあの日の些細なこと、覚えてくれていたんだ。
そんなことが嬉しくて、目尻にしわを寄せて笑うハル君を見ていると、思い出した。
この笑顔に、
心を奪われたんだったって。
そんなハル君に目を惹かれたまま、胸は急速に温かくなっていく。
「俺さ、もうすぐ海外留学するんだ」
だけど、それも一瞬。
チクチクと針にさされるように、胸が急激に痛みだす。
知っていたはずなのに、改めてハル君から聞いてしまうと、急に現実味を帯びてきたんだ。
いたたまれなくなって、気付かれないようにギュッと両手の拳を握り締める。
「……もしかして、知ってた?」
「えっ、な、なんで?」
「望か……」
フッと鼻で笑ったハル君は、
「紗夜香は分かりやすいな」
って、今度は悪戯っぽく笑いながら、慌てる私の頭を思いっきり撫でてきた。


