「どうした? ボーッとして」
「へっ……? うわっ!!」
「ブッ!! 驚きすぎだろ」
気付けば間近にハル君の顔があって、思いっきり吹き出されてしまった。
「だって、先生がさ……」
ハル君の顔が近すぎて驚いて、ドキドキしているなんて……言えない。
照れ隠しから口籠もって俯くと、スッと温もりが消えた。
それが、手が離れてしまったのだと気づいたのはすぐで、
「ダメだなー」
気づかれないように、ポツリと呟いた。
寂しくて切なくて、何だか泣きそうになる。
頭の中で理解しているから。
今日がハル君と過ごせる最後の日だって。
「置いてくぞー?」
「えっ? まだチケット買ってないよ?」
「それならもう買ってきてるし、ほらっ」
そんな私の目の前に、チケットが差し出された。
慌てて財布を取り出していると、
「いいって、紗夜香は気にしなくて」
「でも! 誘ったのは私だし……って、先生!!」
私の言葉を無視して、先をスタスタと歩いていく。
もうっ。
……でも、ハル君らしいや。
「ありがと、先生」
追い掛けて行った背中に向かって声をかけると、笑みを浮かべて振り返る。
ただそれだけのことが嬉しくて、気分が少しだけ浮上した。


