それからは慌ただしかった。

亘さんとの電話をため息をつきながら切ると、望さんは私を見るなり謝ってきた。

そして、ハル君の家の勝手をいろいろと教えてくれて、



「ハルのことよろしくね。何かあったら電話して!」



足早にハル君の家を去っていった。

その間、私は何も言葉を発することができず。


取り残された家の中。

お鍋のおかゆはグツグツと音を立てている。

それを眺めながら小さく息を吐く。


たかがおかゆと言ったって、誰かの為に作るなんて初めてで。

ましてやそれがハル君だから。



「もういいかなぁ……」



バイトとは違った妙な緊張感が私を襲っていた。


普段からちゃんと料理をしていればよかった。

ふと、そんなことを思う。

そうすればこんなに不安になることもなくて、ハル君にも安心して食べさせられたのに。


……もしかしたら、経験を積んで学ぶことに、意味のないことなんてないのかもしれない。

常識も日常生活も。

そして、勉強も……。


漠然とこんなことを思い始めたのも、



「ハル君のせいなんだから」



きっかけはいつもハル君。

ハル君のせい。


……ううん、ハル君のおかげ。


心の片隅に隠していた悩みが飛び出してくる。

何の為に勉強して、何の為に国立大を目指すのか。


その答えはすぐには見つからなくても、いつか見つかる日がくるんじゃないかって。


そんなことを思いながら、鍋を気にしつつりんごの皮むきをしていた。