「先生が……注射とか、嫌い?」
それは、普段のハル君からは想像し難いことだった。
意外も意外。
そんな一面にこんな状況だと言うのに、
「そうそう。注射するぐらいなら家で寝て治すって言ってね、絶対病院に行かないんだよ。子どもみたいに駄々こねて……さ」
望さんの笑いにつられ、私も口の端が緩んで笑いが漏れてしまう。
「ハルは高校の時からこの家に一人だからさ、その度に亘と来て病院行かせようとしてたんだけど……諦めた」
「そうなんですか」
どうせろくに物も食べていないからと言って、おかゆを作る準備を始めた望さん。
私に断りを入れて材料を取り出して、ハンドソープをつけて手を洗い、続けて私も洗う。
そして、ふと気が付いた。
「今日、亘さんは?」
そう言えば姿がない。
来るような気配もないし。
いつも二人で、って言っていたのに。
「あ〜っ、亘は勉強中。明日の試験やばいらしくて。と言うより、どれもやばいみたいだけど」
そう言ってケラケラと笑いながら、すばやく調理器具を準備する望さんの元に、
「噂をすれば、ですか?」
「だね」
一本の電話が入った。


