頭が混乱していた。
会えなくなるということは、理解しているつもりだった。
だけど、どうしようもない感情が渦巻く。
「応援するって気持ちに変わりはないよ、それに……言わずに後悔だけはして欲しくなくて」
望さんの気持ちは痛いほど伝わってきた。
私のことを思っての言葉だと、そう思える。
じゃなきゃ、今日わざわざ呼んだりしなかっただろう。
それでも、それなら気持ちを伝えます……だなんて、簡単に言えない。
それでなくても悩んでいたのに。
ハル君が、シアトルに……?
まるで、夢を見ているみたいに現実味がない。
「ここがハルの家だよ」
その言葉にハッと顔を上げると、高級そうなマンションが目の前にそびえ立っていた。
自動ドアを抜けて中に入り、部屋番号を押した望さんはハル君の返答を待つ。
だけど、何度押しても出てくる気配はなくて。
「あれだけ電話で言ったのに」
ため息をつきながら携帯電話を取り出した望さんは、おそらくハル君に電話をかけているのだろう。
その間、多分私は放心していた。
急に突き付けられた現実を、受け入れるのにいっぱいいっぱいで。
気付いた時にはオートロックは解除されていて、
「紗夜香ちゃん、行くよ?」
先に中に入っていた望さんに促されて、慌てて後をついていった。


