後悔したところで時間は戻らない。

だけど間違いだと気付くには時間が必要だった。


私の気持ちの行き着く先が何通りもあればいいのに。

そう思ってはみても。

どんなに周り道したところで、行き着く先は一つにしか思えなくてどうしようもない。


どうしようもなくハル君のことが好きなんだ。


鏡に映る涙でグチャグチャになった自分の顔が滑稽で、笑いさえ出てきた。

落ち着きを取り戻すにはあまりに時間がなくて、何とか化粧で隠して家を出る。


カチャリ――。

鍵の閉まる音が体に振動する。


気付いたところで優しい颯平に、今更別れを告げるなんてできない。

長く一緒に過ごした時間は確実に情を育てていた。


凄く残酷な情。

凄く自分勝手な情。


颯平を傷つけたくないと思いつつ、ただ、自分が傷つきたくないだけなのかもしれない。



「こんな想いするぐらいなら、恋……しなければよかった」



吐き出した言葉は雑踏の中にかき消されてゆく。


青々とした新緑が風に揺れ、暖かな日差しが降り注ぐ。

その下で爽やかな笑顔を浮かべる颯平に手を振って、自分の気持ちに蓋をした。

それさえ間違いなのかもしれない、後悔するかもしれない。

それでも今はこの選択しかできなくて……。


初夏を感じるこの情景が、私の心と合いまみれることはなかった。