あの人から呼び出されたのは、午前九時をまわったところだった。

「今日休みなんでしょ。必ず来て」

 雨の日に遠く離れた喫茶店を指定してきたのは、きっとわざとだ。

 私はあの人に携帯番号も休日がいつかということも教えたことなんてない。この先もずっと教えることなんてないはずだった。

 教えた人がいる。その教えた人を私は知ってる。

 その人を想ったとき、胸が締め付けられた。


「彼、あなたとは別れるって言ったわ。いい?彼は私を選んだの。下ばっかり見てないで、なんとか言ってみたら」

 彼と出会ったときから彼女がいることはわかっていた。だけど、それでもいい。彼のことが好きだった。

 この人の前では泣きたくない。我慢していたけど、きっとばれていたと思う。

「もう連絡しないし、しないでくれって。彼からあなたへの最後の言葉よ」

 最後……。

「彼から言ってくれないの」

 私は顔を上げて、彼女を見た。