線香も水をやるのも終えて、愛海が静かに手を合わせるのを俺は後ろから眺めていた。
何を考えているのかは、わからない。

くるみに伝えたい事を考えているのだろう。


「さ。終わり。行こうか」

「ああ」

「ねえ、家に来ない?」

「え?」


手桶を持って、立ち上がると愛海は俺の隣に並びながら自然とそう口にした。


「家ね、ここから近いの。
どこか行きたい場所があるわけでもないし…、ダメかな」

「………」

「少しでいいからさ」

「……はあ、わかった」


どうにかなるとは思ってなかったし、そんな気もなかったから行く事は別に問題ない。
でも、くるみの私物があったら…俺はどう思うのか。

正直、それが一番怖い。

どう思うのかなんて、見当もつかない。


案内されるがまま、俺は愛海の家まで向かった。
本当に霊園からすぐ近くで、歩いて五分ぐらいじゃないだろうか。


きっと、敢えてこの近くを選んだんだろうな。


「鍵、鍵…」


愛海は部屋の前まで来ると、カバンをごそごそと探る。
キーケースを取りだすと、鍵を開けた。