あれから数カ月経った。
何かが変わったわけでもない。


毎日客の相手をして、作り笑いして。
抱いて、慰めて。
彼氏としての立場を全うしていた。


聖もあれから吏紀や伊織の話題も出さずにいたから、俺も何も触れずにいようと決めた。


だから。
それは突然だった。


いつも通り、客と会って寮まで帰って来た俺はエレベーターへと向かう。
扉が開いて、中に乗り込み目的の階へ到着するのを待った。


それから、自分の部屋へと歩く。
その途中。


ガチャリと開いた扉。

そこは、開くはずのない扉。



俺は目を見開いたまま、その扉から出てくる人物を見つめた。


「……ど、うして」


その人物は俺をちらっと見ると、笑顔を向けるでもなく、言葉を発するでもなく視線を逸らした。


「い…おり」


そこにいた人物は紛れもなく、伊織本人だ。


伊織は俺の言葉を無視したまま、すたすたと歩いて行く。
逃すまいとその腕をがしっと掴んだ俺は、伊織に問いただした。