このまま、心地良いままでいたかった。しかし、携帯の着信音が無情にも現実に引き戻す。


高柳は静奈の頭を胸に引き寄せ、仕方なく携帯に出る。



「はい…、はい…わかりました。すぐ行きます」


落ち着いた声で対応をする。
また友香だろうか。不安がよぎり、無意識に高柳のスーツを握り締める。


「社長から呼び出しだ」
「そう…ですか…」



社長と聞いて思わずホッとしてしまう。



「悪い。送ってやれないけど…」

「大丈夫です。1人で帰れます。」

「悪いな。じゃぁ…」



高柳は静奈の頬をそっと撫でてから医務室を出て行った。


シンッと静まり返った部屋。


高柳の体温を感じていたからだろうか。一気に空気が冷たくなった気がした。


これからどうなるのだろう。

高柳はどうするのだろう

考えれば考えるほど不安でどうしたらいいかわからない。


静奈にはわからないことだけど、でも…。


あの優しいキス。


あのキスは…


高柳の気持ちに触れた気がして嬉しかった。


ただそれだけが、


事実だと思ったのだ。