重い気持ちのままエレベーターを降り、俯いたままでロビーを抜け、会社を出た瞬間、人にぶつかってしまった。



「あっ、すみません」

「いえ…、橘?」



その声に顔を上げると、そこには高柳の姿があった。

なんてタイミングだろう
一番逢いたくて、逢いたくなかった人に遭遇してしまうなんて。



「高柳さん、お疲れ様です…」

「お疲れ」

「じゃぁ…」

「どうかした?」



動揺してすぐに立ち去ろうとした静奈の変化に気がついた高柳は首を傾げ聞いてきた。



「何かあった?」

「え?」

「泣きそうな顔してる」
「っ…」



高柳らしくない気遣うような声に心がぐらついた
我慢していたのに。
本当に泣きたくなる。
甘えたくなる。



「何かミスでもしたか?」

「…ミスというか…」



答えられず俯く静奈に、温かい何かが触れた。

高柳が静奈の頭を撫でていたのだ。
優しく、それも何度も。


「高柳さん…」

「大丈夫か?」



優しい目で静奈を見下ろす。慰めるように触れる温かい大きな手が心を揺さぶる。


3年前みたく、泣いてんなって言ったりしない。 あんな冷たい目じゃなく優しい目が向けられている。



「高柳さん…」



この手に甘えたかった。