「あれ?ごめんなさい!気がつかなかった」



友香は驚いたように律から一歩下がる。

どうしようかとも思ったが、静奈はとりあえず会釈をした。
友香もにこやかに会釈を返す。



「会社の方?」

「あ、はい。秘書課の橘と申します」



緊張と戸惑いが現れないよう挨拶をする。



「どうも。結城友香です。…って、え?秘書課?律、やっぱり役職に入ったの!?」



友香は驚いたように高柳を見上げる。

静奈はハッと友香を見た
『役職に入ったの!?』なんて、まるで高柳の立場を知っているようだ。



「違う。つーか、友香!あんまベラベラしゃべんなよ。」

「あら、ごめんなさいね。ねぇ、なら積もる話は食事しながらにしましょうよ。仕事終わったんでしょう?」



イラっとした高柳にも慣れたように友香は誘う。

静奈はギュッと胸の前で 手を握った。
胸が激しく痛む。


早くここから離れたかった。



「悪いけど…「私、帰ります!」



高柳の声を遮って静奈は言った。



「橘!?」

「高柳さん、私、用事があるのでこれで失礼します。お疲れ様でした。」
「あ、おい!橘!」



高柳の声を無視し、静奈は立ち去った。


あれ以上あそこにいるのは苦痛だった。


胸がモヤモヤする。
あの人があれ以上高柳を親しげに『律』と呼ぶのを聞きたくなかった。
高柳が慣れたように『友香』と呼ぶのを聞きたくなかった。



食事に誘われて2人で歩いて行く姿は見たくなかった。



「…女の感ってやつ?」


確信は無いけれど

2人の関係性は…


きっと…