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あれから。

高柳の体調も戻り、また忙しくしているが、何となく高柳の表情が柔らかくなったように感じる。

そう思うのは看病したあの日――高柳の違う一面を見たからだろうか。


あの高柳が素直に甘えるなんて…。
よくよく考えれば驚きである。


静奈はパソコン画面を見ながらボンヤリそんな事を考えていた。



「静奈?」

「あ、ハイ!」

「どした?ボーッとして。」



貴子が首を傾げて見ている。慌てて首を振った。


「何でもないです!」

「そう?ならいいけど。―…あのさ、静奈。」

「ハイ?」

「先月の会議のファイルの束って持ってる?」

「ありますよ。今朝まとめ終わりました。」

「ちょっと見せてくれるかな?」



貴子は静奈の机にあるファイルを指差す。



「いいですけど…?」



先月の会議資料のまとめは静奈の担当だったが、 中身は秘書仕事には関係ない内容だ。
そんな静奈の気持ちに気がついたのか貴子は笑った。



「ほら、私、今月まとめ担当でしょ?だから確認しときたいことがあって…」

「そうですか。」



さすが優秀な秘書である。抜かりはないのだろう。



「あ、もうこんな時間ね。静奈、先にお昼行ってていいよ。」

「そうですか?ならお先に失礼します。」



そう言って、真剣にファイルをめくる貴子を1人残して秘書課を出て行った。