「あいつから俺らのこと聞いた?」
“俺ら”それには父親である前社長も含まれているんだろう。
「えっと少しだけ…。高柳さんのお母さんが亡くなった時に知ったって…。」
「うん。あいつはそうみたいだね。俺はガキの頃知ったかな。親がケンカしている内容から、あ~弟がいるんだって。」
ケンカ。そういえば、高柳さんのお母さんは不倫だったって…。
「両親のケンカの種だったけど、ずっと弟ってどんな奴何だろうって思ってたから、会えた時は嬉しかったなぁ。」
クシャと笑顔を見せる。本当に嬉しかったんだろうな。
意外だった。
両親のケンカの種なのに、会いたかっただなんて…。
「あのマンションさ、律が住むには高級だろ?」
「まぁ…そうですね。初めて行った時はビックリしました。」
「あの部屋、親父が律にあげたんだ。遺産ってやつ?母親の手前、あれだけしかあげられなかったけど。」
「そうだったんですか…」
それで納得した。あんな高級マンションに住む理由が。
「したら、あいつ、何を思ったのかウチの会社に入社してきたんだ。」
「え?自分で、ですか?」
「そう。自分で試験うけて。名簿見たときかなりビビったよ。」
「なんで…」
社長とは接し方がわからず、あまり関わりたくないと言っていた。
なのに何故、自分から?
「…たぶん、あのマンションを貰ったからだな。義理難いっつーか、なんて言うか…。」
静奈の疑問に答えるように呟いた。
「“俺は一生営業でいいんです”」
「え?」
「入社した頃、そう言ってたんだ。」
一生、営業でいい。
そんな事を言っていたなんて。