彼は自分のことを俺という。


隣にいるのは誰?


恐怖に襲われながらも、それを相手に悟られてはいけないと、理性が働く。



「未亜、僕のいう事が聞けないの?」



目を閉じていても感じる。


顔の直ぐ横まで忍び寄る誰か。


目を開けてはいけない。


絶対に見てはいけない様な気がした。



「未亜っ!!」



どんどん彼の態度が豹変していく。



“貴方は彼じゃない。 私は知らない。 何処かへ行って……”

「何を言ってるの? 僕だよ。 透(とおる)だよ」



彼の名前迄知ってるの?


怖い……ただそれだけだった。



“透は今日は家でゆっくりしてるはず!! こんなところにいる訳がない!!”

「…………」



暫くの間、沈黙が流れた。


その間私は何も言えなかった。


たとえ心の声だとしても、言えなかった。



「チッ……」



長い沈黙の後、彼は舌打ちをし、気配を消した。


体が自由になり横を向くと、既にだれも居なかった。


この時騙されて返事をしていたら、彼のいう通りにしていたらわたしはどうなっていたんだろう。


そう思うと、ゾッとした。


皆様、弱っている時こそ、気をしっかりと持ちましょう。