「…馬鹿を言うな」
そんなわけがない。
愛、などと。
そんなもの、俺は知らない。
「馬鹿はぬしよ。愛を知らぬ、哀しき殿下。………ぬしに足りぬのはぬしの横に立ち、ぬしと同じ視線で物事を見る者。従者でなく、ぬしと同等にな」
「―――そんなもの!そんな存在、俺には必要ない!…貴様、とうとう気でもふれたか?」
俺は立ち上がり、憎しみを込めて座ったままの婆を見下ろした。
すると婆は何もかもを見通しているとでも言ったような笑みを浮かべ、事も無げにこう告げる。
「………では殿下。その娘がぬしでなく他の男のものになってもかまわぬと、そう言うことだな?」

