あいつの気配がしない。
あいつの香りもない。
この部屋にあるのはただ無機質な家具ばかり。それと、俺と同じヴァンパイアの少しだけ鉄錆の香りがする気配ばかりを感じ取ってしまって。
…帰りたい、と。
無性にそう思った。
―――俺がそうやって、しばらくぼんやりと天井を眺めていると、廊下にかすかな足音が響いているのを感じた。
そして、ドアに視線を向けたと同時にガチャリと音が響き。
「………殿下!」
そう呼ぶ日向の声に、俺は何も答えなかった。
というより、答えられることなんて俺には何もない。ただここにいる、それだけが正確な答えだった。

