俺をただのひとりの“俺”として扱うことに慣れていなくて。
でも、慣れてしまえばこれ以上心地の良いことはなくて。
だから、だから。
俺だけを見ていてほしいと、気づけばそう思うようになっていた。
そのまなざしも。
声も、指先も。
その身体の、髪の先までも俺のものにできるなら。
―――俺はもう、ヴァンパイアになんて戻らなくていいから。
呪いなんて解けなくてもいいから、透子のそばにいたい。
とっさに掴んだ透子の指先からは、花のような甘い香りがした。
胸一杯にその香りを吸い込めば、身体の芯から満たされていくようで。
(………透子)
心の中で唱えた名前は、万能の呪文のようだった。

