そう思った、のに。 「…仕方あるまい」 常陸がそう言ったから、私はおそるおそる顔を上げた。すると常陸はその整った顔を私にぐっと近づけて、ニヤリと笑う。 「この狭苦しい小屋の中にいてばかりも良くないからな。早く外を案内しろ」 ―――いかにも悪い男風な笑い方だった。 でも、初めて見た常陸の笑う顔に、…私は不覚にもときめいてしまって。 「だったら早く顔洗ってきて!」 赤いままの顔を見られないように常陸の腕を引き、洗面所まで案内するのだった。