「―――おや、どこの馬鹿者が盛っているのかと思えば殿下じゃないか」
どこからともなく聞こえたその声に、常陸も私も動きを止める。私の頬に手を添えたまま視線だけちらりと動かした常陸は、声の主を確かめると思いっきり不機嫌な声を上げた。
「…婆か。珍しいこともあるものだ」
婆、と。
言われたその人はヒヒッと笑ってこちらに近づいてくる。そうして私たちの前に立ち、私をまじまじと見上げた。
「無事実ったようだの。…おや、まだ契りは交わしていないようだね」
…ち、契りって!
そういう言葉で言われるとなんだか無性に恥ずかしくなってきてしまい私が固まっていると、常陸は盛大にため息をついて。
「貴様のせいで透子が怖がっているではないか!―――透子、すまないな。…和泉婆といって、俺に呪いをかけた張本人だ」
そう、言った。

