音もなく現れた常陸に、私は驚く以上に胸が甘く締め付けられるような感覚を覚えた。
相変わらずの偉そうな態度なのにどこか焦った様子の常陸に、私の涙腺は塞がっていく。



「…ついてこい」


つかつかと私の前にやってきた常陸は私の腕を掴み、そう言って私を抱き上げた。
とっさの出来事に慌てて常陸の背中に回された腕に力を込めると私の顔は常陸の胸に押しつけられる格好になり、頭上から常陸の声が聞こえる。



「………本気だったんだな、日向」


「こうでもしなければ殿下は動かせないと想いまして。…本日これ以降の執務はすべて明日に回しますので、ごゆっくり」




何の話をしているのか私にはわからなかった。


ただ、洋服越しに伝わる常陸の鼓動に安心して。涙が一滴、こぼれ落ちた。