城の中で兄に甘えることはできない。



藤松の咎めるような視線を浴びながら、香蘭は馬から飛び降りた。



「もういいわお兄様。私大丈夫ですから」


「香蘭、藤松のことなら気にしなくていい。具合が悪いんだろう」


「いいえ、もう大丈夫。治ったわ」



そう言って珀伶に頭を下げ、藤松のほうに体を向けた。



「ごめんなさい。無理を言って遠乗りに連れて行ってもらっていたの」



藤松は香蘭を蔑んだ目で見下ろし、腕を組んだ。



「困りますな姫君。珀伶様はお忙しいのです。勝手なことをなさらないでいただきたい」


「ええ、ごめんね」


「藤松!」


珀伶の藤松を咎める声を聞きながら、香蘭は一人で城の中に入っていった。


珀伶はその後ろ姿を見送っていたが、姿が見えなくなると馬から降り手綱を藤松に持たせた。

藤松は手綱を受け取りながら遠くにいた馬番を呼ぼうとしたが、珀伶がそれを止めた。


「お前が、馬屋まで連れて行くんだ」


「へ、ですが――…」


「わたしはここから動かないで待っていてやるから、早く連れて行きなさい」


藤松は珀伶の機嫌がよろしくないのと、有無をいわさない態度にしぶしぶ馬を引いて行った。


付き人である自分が馬番のようなことをしなければならない屈辱に、さっさと馬を近くにいる衛兵にでも渡したかったが、珀伶が鬼のような形相で自分を見張っているので、そうも行かずに馬屋まで行くしかなかったのだった。