「こんなところで寝ていたら、風邪をひくよ」





聞きなれた声に、香蘭は飛び起きた。優しく香蘭を見つめる青年は、紛れもなく珀伶であった。


「どうしてお兄様がここに?」


はっとして辺りを見回すと、すぐ側には憂焔もいた。


「憂焔! ああ、よかった。もう、大丈夫なの?」


憂焔の手を取ると、憂焔は香蘭に微笑んだ。


「香蘭……」


優しい微笑みに、香蘭が安堵して息を吐くと、急に手に痛みが走った。

驚いて手に目をやると、珀伶が香蘭と憂焔の手に縄をかけているのである。


信じられずに珀伶を見上げると、珀伶はとても辛そうな顔で、香蘭を見下ろしている。


「香蘭は、私を見捨てるのか?鈴国のことなど、どうでもよいのか」


「そんな、違うわお兄様!私は鈴国を見捨てたわけではないのです!」


「黙れ。香蘭……、お前は裏切り者だ。鈴国を裏切り、敵についた」


珀伶は腰の刀を抜き取り、香蘭に真っ直ぐに向けた。


香蘭は目を見開いて珀伶から逃げようと身をよじるが、縄のせいで逃げることができない。


「やめて……、やめて!」


必死で訴えるも、表情をなくした伯玲にそれが届くはずもなく。



刀が振り下ろされ、香蘭は強く目を閉じた。