「憂焔……!私のことなんか庇わなくてよかったのに!」


涙を浮かべながら、今にも崩れ落ちてしまいそうな憂焔の肩を支えた。


痛々しく彼の背中に突き刺さる剣を抜きたくて仕方なかったけれど、抜いてはいけないのを香蘭は知っていた。

剣を抜いてしまうと、ますます血が流れてしまう。



二人を敵が取り囲む。

盗賊かと思いきや、彼らはまるで兵士のような恰好をしている。


馬車の周りに倒れている者たちには見覚えがあった。


自分たちとともに香国へ向かっていたものはみんな、殺されてしまったのだ。



憂焔はとうとう地面に膝をつき、どうしたらいいかわからなくて香蘭は泣き出した。


「お前は……もしや鈴国の姫君か?」


涼やかな、よく通る女性の声がして、香蘭ははっとそちらに目を向けた。


いつの間にか香蘭のそばに、他国の衣裳を纏った高貴そうな女性が二人を見下ろすように立っていたのだ。


「なぜ、鈴国の姫がこの一行に……」


彼女は香蘭をじっと見ながら考え込んでいたが、途中で何かに気付いたように眉を寄せた。


「嵌められた、か」


苦々しく呟いて、女性はくるりと香蘭に背を向けた。