「まったく、憂焔さまったら。気を使わなくともいいですのに」
そう言って口を尖らせたカオルから、ふわりといつか感じた香りと同じ香りがした。
確か、敵から逃れて鏡国を出た際に留まった町で感じたような気がする。
香りを追って行ったら、憂焔が現れたのだ。
香蘭がじっと見ていたことに気づき、カオルは香蘭ににっこりと笑みを向けた。
「香蘭姫さま。あなたときちんとお話をするのは初めてですね」
その言葉を受けて、ハルがぽんと手を打った。
「そういえばそうだね。あんたどこにいたの?ずっとここにいた?」
「ハル。わたしはずっと憂焔さまの中に隠れておりましたわ」
「は?」
間抜けな顔をするハルとは正反対、カオルは澄まして、綺麗に背筋を伸ばして立っている。
「宝焔さまにいいように使われるのは御免でしたから、力と声だけ、憂焔さまの中に移していたのです」
「あ、そうなの……」
後ずさりして、その場をゆっくり離れようとしたハルを憂焔がすかさず捕まえた。
「おいこら、やっぱり身近にいたんじゃねーか」
「ええ?なんのこと?」
「とぼけてんじゃねーよお前は」
二人のやりとりを見た香蘭がくすっと笑うと、二人ともそろりと目を合わせて、照れくさそうに笑った。
と同時に、その二人の背後の崩れた建物の影から、珀伶が顔を出した。



