誰かの、逞しい腕を感じた。


「はあ、はあ、……香蘭!」


池の中から香蘭を引き上げ、憂焔はぺちぺちと香蘭の頬を叩いた。

けほけほと咳をして香蘭が目を開けると、ほっと胸を撫で下ろした。


「よかった……」


息をつく憂焔の着物はぐっしょりと水に濡れてしまっている。

どうやら池の中に飛び込んで、気を失った香蘭を助けてくれたらしい。


お礼を言わなくては、と口を開こうとしたところで、憂焔の横からハルたち三人がひょこっと顔を出した。


「ごめんね。あたしたちも疲れてて、助けられなかったの」


いいのよ、と首を振る。

それから目だけを動かして辺りを見ると、誰かが起こした焚き火の火が目の端にちらちらと見えたが、秋蛍の姿は見当たらない。


「……」


「香蘭さま、ずぶ濡れでございます。私が乾かしましょう」


カオルが香蘭の着物に手を翳すと、翳された場所から次第に着物が渇いていく。


しばらくそうしてもらっていると、濡れていたことなどなかったかのようにすっかり乾いてしまった。


「憂焔さまも……」


「いや、いいよ。疲れてるだろ」


脱いでりゃ乾く、と言って憂焔は香蘭に背を向け、濡れた着物を脱いだ。


顕わになった彼の背中に、香蘭は少し胸を痛めた。


憂焔の背中に残る傷。

あれは憂焔のもとへ嫁ぐ道中に襲われたとき、香蘭を庇ってついたものだ。