「香蘭」


名前を呼ばれ、その震える肩を抱き寄せられた。


気づいたときには秋蛍の腕の中にいて―――唇が、そっと重ねられた。


それは一瞬のことで、秋蛍はすぐに離れ、柔らかな微笑みを香蘭に向けた。


香蘭がはっと我に返ったときには、秋蛍はすでに手を伸ばしても届かないところへいた。


秋蛍はそのまま、香蘭に背を向けて未だ暴れまわる魔物のほうへと身を進める。


「秋蛍さま!」


彼のもとへ行こうとする香蘭を、ハルたちが必死で止めた。


香蘭はもがきながら、秋蛍を呼び続けたが、香蘭の声など聞こえないかのように彼は一度も振り返らなかった。


魔物の頭頂部まで辿りついた秋蛍は、黒い手の一本に捕まり、なんとかその場に留まった。


笙鈴の短刀を構える。

そして、呟く。


「もう終わりにしよう、笙鈴」


短刀を振りかざし、魔物の頭に深く突き刺した。


短刀は今まで以上に強く光を放ち、目を開けていられないほどだ。


あまりの眩しく、辺りは光に包まれて、自分がどこにいるのかわからなくなる。


おまけに溢れでる強い’流れ’が香蘭の意識を奪おうとする。

必死に抗ったが、抵抗できないほどの強い流れに意識が遠くなる。



心配そうに覗き込んでくるハルの顔が霞んで―――