(そう遠くない昔、鈴帝さまと、月姫さまのお話です)



母親が子に物語を聞かせるときのようにゆっくりと、トオルの声が頭の中に響いた。


映像の中に、若い男が登場した。

凛々しい顔つきは、どこか珀伶を思わせる。



(彼こそが、若かりし時の鈴帝さま。まだわたしを、おそばに置いておられた頃のことです)



彼はある部屋の中へ一歩入ったところで足を止めた。


その部屋の中には、一人の女性がいた。

女性は半蔀を上にあげ、夜空を見上げていた。


「月姫」


若い鈴帝が、愛おしそうに彼女を呼んだ。

月姫と呼ばれた女性が振り返る。


外から差し込む月明かりが、彼女の美しい長い髪を煌めかせた。


彼女は鈴帝を見ると、顔を綻ばせて側に寄り、彼を見上げた。

その腕には、小さな赤子が抱かれていた。


「よく無事に生んでくれたな」


「ええ……」


月姫は微笑んだが、すぐに複雑な表情をして腕の中の赤子に視線を落とした。


「わたくしにはわかりますの。この子は笙鈴さまの生まれ変わり……」


「笙鈴?」


鈴帝は首を傾げた。


思い当る人物が記憶の中にいないらしい。


月姫は赤子の頬に指を滑らせながら、付け加えた。


「わたくしの一族の先祖にあたる方ですわ。とても強い力を持ったお方で、王のもとへ嫁がれました。その方の魂を、この子は持っております」