香蘭は悔しさに唇を噛んだ。
父を止めることもできないで、どうしてあの人を救うことができようか。
香蘭は飛び起きるとすぐに懐から短刀を取り出し、鈴王に切っ先を向けた。
鈴王は刃を向ける香蘭を見て、ゆっくりと頷いた。
「……そうだ香蘭、それでいい」
香蘭は短刀を握りしめて、地面を蹴った。
きっと躱される。
香蘭には父王を止めることができない。
けれども香蘭にも、父王と同じようにやりとげたいことがある。
そのためにはこれ以上父王を進ませるわけにはいかないのだ。
諦めるわけには、いかない。
香蘭は目を強く瞑って、鈴王に突進した。
躱されると思っていたのに、短刀を握りしめる手に感じたのは、確かな手応え。
短刀は深々と、鈴王の腹部にその身を沈めていた。
まるでその場所へ導くかのように、鈴王が動いたのだ。
「え……」
香蘭は驚きに目を見開き、父王を見上げた。
そこには、これまでに香蘭が見たことのない、優しい微笑みを浮かべる父がいた。
「よくやった。お前ならばきっとあれを封じることができる」
香蘭の髪をそっと撫で、柔らかな声でそう告げた。
香蘭は戸惑いながら父を見つめた。
血が短刀をつたって香蘭の手を汚す。
その生ぬるい感触に動揺する香蘭の耳元で、鈴王はそっと囁いた。
「愛している、香蘭」
「お、おとうさ、ま……?」
鈴王の体が、地面に崩れ落ちた。
倒れた王を目の前に、香蘭は放心した。
一体これは、どういうこと……?



