「だけど、香蘭がそう言うのなら、わたしは父上を止めよう。何か大事な理由があるのだろう」


「お兄様……!」


ぱっと顔をあげると、珀伶は人差し指を唇にあてた。


「ついでにこれを。返すのを忘れていた」


珀伶は香蘭に短刀を渡した。


「少し待っていなさい。さっきトオルの使い方を覚えたところでね、彼女を使って探してみよう」


そう言って珀伶が懐から鈴を取り出すと、銀色の鈴はみるみるうちに女の子の姿に変わっていった。

すっかりトオルの姿になった鈴の目線にあわせるようにして、珀伶は身を屈める。


「トオル、できるね?」


「はい、珀伶さま」


トオルは頷き、目を閉じた。

軽やかな鈴の音が辺りに響き渡る。


けれどもその音が聞こえているのはどうやら香蘭と珀伶だけのようで、戦いに身を投じているものは誰一人として鈴の音に反応しない。


香蘭は鈴の音を聞きながら、目視で鈴王を見つけだそうと戦場を食い入るように見つめた。

しかし血を流しながら剣を振るう兵士ばかりで父王の姿は見当たらない。


やがてトオルの体がぴくりと動き、彼女はゆっくりと目を開けた。


「みつけました」


香蘭と珀伶はトオルの方にぱっと顔を向けた。


「本当か。どちらに?」


「彼の方はこちらへ向かってきています。探す必要はないようですよ……」


なぜかトオルは、ひどく悲しそうな表情で前方に視線を送った。


香蘭と珀伶もその方向を見ると、馬で兵を蹴散らしながらこちらへ近づいてくる鈴王の姿が見えて身構えた。