「あの方も可哀相な方でございました。母君は第一皇子であるあなたばかりを愛し……
恋をした相手もあなた様の婚約者……
愛に飢えて苦しんでおられたところを、あれに魅入られてしまったのです」


俯いて涙を拭う仕草をするカオルを見ながら、秋蛍は腕を組んで口を開いた。


「あれとは、池に棲むあれか」


「そうです」


「何だよ、あれって」


秋蛍は首を傾げる憂焔に、盛大なため息をつき、憐れみの視線を向けた。


答える気のないらしい秋蛍をちらりと見て、代わりにハルが答える。


「気づいていなかったの?この池には魔物が棲みついているよ」


憂焔がこれ以上開いたら目がこぼれ落ちそうなほどに目を見開く横で、カオルはひたすら袖口を目に押し当てている。