「甘いかと思ったら、すっぱいのね」
「甘いのが好きなのか」
「ええ」
「それじゃ、今度は甘いのを持ってきてやるよ」
憂焔は香蘭の手から木の実をとり、少し齧って顔をしかめた。
「本当だ。すっぱい」
「ね?言ったとおりでしょ」
憂焔は顔をしかめながらも木の実をまた口にした。
そして少し開いた障子の間から見える三日月を見上げ、ぼんやりと考え事を始めてしまったようだった。
彼が喋らなくなってやることがない香蘭も、彼と一緒に月を見上げ、くっきり浮かんだ月の形をなぞるように眺めた。
木の実を全部食べ切った憂焔は、指に残った果汁を舐め、月を見上げたまま口を開いた。
「香蘭」
「なあに?」
「香蘭は恋をしたことがあるのか?」
憂焔の突然の質問に、香蘭は戸惑ったが、首を横に振った。
「ないわ」
香蘭の答えに、憂焔はそうだろうなというように頷いた。
「そうだよな。深窓のお姫様だという噂だったものな。さぞお父上は香蘭を可愛がっているんだろうね」
それはあり得ない、と思いながら、香蘭は曖昧に笑った。
憂焔は首を振る香蘭をじっと見ていたが、何かを思い出したらしくにやりと笑った。
「実際に見てみりゃ、深窓とは程遠いお転婆娘だったけどな」
「まあ!」



