「お前、まさか巫女だったとはな。鈴王様も手離したりはしなかったのに。安心しな、お前は殺されやしないだろうから」


香蘭の気持ちを知ってか知らずか、藤松はにやりと笑った。


またよからぬことを企んでいるのか、とて楽しげなのが香蘭の癇に障る。


「巫女ということは、鈴を扱えるんだろう。俺と勝負しないか、巫女様」


「鈴…」


鈴の使い手はこの男だったのかと香蘭は悟った。



どうりで香蘭が巫女であると知られたわけである。


藤松は香蘭の気配をよく知っている。



何かを企んでいるらしい藤松の申し出を断ろうとしたが、あることに気づいてはっと身を起こした。


急に起き上がった香蘭を藤松が不審な目で見ている。


「いいわ。勝負しましょう。だけど、私が使うのは鈴じゃなくて鏡よ」


はっきり声も出すようになって、藤松は目を瞬かせたが、すぐに気を取り直してあの笑みを浮かべた。


「いいだろう。鈴と鏡、どちらが上か試してやる」


「上等よ。あなたこそ私に盾ついて泣くことになっても知らないから」


「ふん、急に元気になったな。それではお前も兄が恋しいだろうから、勝負には珀伶様に立ち会っていただく」



珀伶の名前が出された途端表情を曇らせた香蘭を見て、藤松は愉快そうに部屋を出て行った。




藤松が出て行ったあとの戸を睨みながら、香蘭は縛られたままの手のひらに爪をたてた。





「やるしかないわ。これは絶好の機会よ」