「ええ?あいつに買ってやるの?やめときなよ、お金の無駄」



すぐ横から聞こえてきたハルの声に、香蘭は驚いて視線をそちらに向けた。


「ハル!?どうしてここに?」


ハルは確か秋蛍に連れられて鏡研ぎの職人のところへ行ったはずである。


ハルは口を尖らせながら髪をいじった。


「だって、いやなんだもの」


「秋蛍様はどうしたの?」


香蘭は秋蛍の姿を探した。



ハルを連れていたのだから、近くにいるのだろうと思ったが、まったく姿が見当たらない。



そんな香蘭を見ながら、ハルはけらけらと笑った。



「着飾った女の人が声をかけてきたから、その隙に逃げてやった。あいつ、今頃どうしてるだろうねぇ」



してやった、といわんばかりに笑うハルを見て、香蘭は力が抜けた。



「もう、ハルったらいじわるね」


「よく言われるわ。あいつからね」


ハルは憎めない笑顔でにっこり笑ってから、香蘭の手を引っ張った。


「リン、何か食べに行こうよ。あたしお腹すいちゃった」


ハルに言われて、そう言われてみればそうだと自分のお腹に手を当てた。

今朝から何も口にしていなかった。


「そうね。じゃ、秋蛍様に内緒で美味しいもの食べちゃおうか!」


ハルは香蘭の顔を見て、さらに嬉しそうに笑った。


「リンもいじわるだね」


「いいのよ。たまには女同士でじっくりお話しましょう」


香蘭は秘密ね、と唇に人差し指を当てると、ハルの小さな手を握った。