女の人が魚を売り歩き、快活な男がしきりに手招きして客引きをしている。


家の多くに暖簾がかかり、それぞれ何かを売っているようだった。


男の子が団子を買っているのを見ながら、香蘭は秋蛍に尋ねた。


「これは、市、なんですか?」


「市とは違う。ここは商人町だ」


「へえ…」


香蘭は市も見たことがないから、どう違っているのかわからない。


もしかしてこれが憂焔の言っていた市というものかも、と思っていた香蘭は少しだけ落胆した。



彼が楽しげに話してくれた市を、この目で見てみたかった。



憂焔は今どうしているのだろう。




香蘭がいなくなって、怒っているだろうか。





「着いたぞ。…何ぼんやりしてる?」


はっとして顔を上げると、少し距離を置いた先で秋蛍が訝しげに香蘭を見ながら暖簾をくぐろうとしている。


香蘭は慌てて駆け寄り、秋蛍に続いて暖簾をくぐった。


「ここは?」


香蘭は店の中を見回した。


櫛や簪、紅、編み笠まで、色々なものが並べてある。


「お前の鏡を買う。好きなものを選べ」


「え、でも」


香蘭はちらりとハルを見た。


ハルはもう香蘭を取り込まないと約束してくれたのだから、ハルがいれば問題ないのではないだろうか。