「心を乱しては駄目だよリン。こいつは人をいじめるのが趣味の最低なやつなんだから」
「人のことを言える身分か」
秋蛍が投げやりにそう言い捨てて二人にここで待つよう指示し、香蘭はもう門の前まで来ていたのだと気付いた。
秋蛍が衛兵に何やら話して門を開けさせた。
大きな門がゆっくりと開き、外の世界が目の前に広がった。
夜明けの薄暗く冷たい空気の中に、街の明かりがぽつぽつと浮かんでいる。
香蘭の悪い癖で、広大な景色につい胸を高鳴らせながら門を潜った。
背後で門が音を立てて閉まるのを聞いて、香蘭は先ほどの続きを切り出した。
「でも、この名前は知られているのではないのですか?だとしたら、自分が巫女です、って触れ回っているようなものだわ」
秋蛍は首を横に振った。
「笙鈴というのは、巫女の本当の名前で、世間に知られていた名前はこれとは違う。安心しろ」
「……ややこしいですね」
「ない頭を使わなくていいから。今からお前は笙鈴だ」
「な……」



