「あ、ここか!案内してくれてありがとう。」

「え。」

「あれ、なんか変か?」

「あ、ううん、どういたしまして。」

お礼なんてこの人から聞いたの初めて。

遥火はフフッと笑って

「どういたしまして…か。」

何?

野乃の不思議そうな顔に答えるように遥火は続けた。


「いや、今までお礼なんて言ったことなかったから、

 それに返事が返ってきたのも初めてだ。」


「え、アメリカだって同じでしょ。」


遥火はちょっと考えてから、


「そうだな、Thanksは連発しても恥ずかしくないのに。

 日本人は言葉が少ない分一言一言に重みがある気がする。」

こんな大きな体なのに小さな子供みたいに思える。

遥火は、

「じゃな!」

ドアを開けて部屋へ入ってしまった。

野乃はそのあとも少しドアの前に立っていた。