それが今さゆりを苦しめている。





さゆりの瞼が動く。






「さゆり!」






「助けて…。」






もがけば…。蔦が這っていく。





次第に蔦が絡まり拘束が強くなる。
金の瞳が月の剣で斬りかかる。






ボタボタ…。





体液が落ちる。






目が霞む。





自分には選べない。






「助けて…。アキラ…。」






ピクリと動いた。






「お前…。さゆりじゃないな…。」






全力で蔦を切り裂いた。さゆりは…。アキラと呼ばない…。





さゆりの姿が消えていく。





そこには人形と髪の毛があった。





「げほっ…。」






体液が思った以上に出てしまったようだ。






「トラップに引っ掛かるなんて…。僕もまだまだだな。」
苦笑しながらよろめき、立ち上がる。金色の瞳はいつの間にかいない。





トラップにかけるつもりが逆に…。
「蛟の幻影か…。」
幻惑に自らはまったようだ。



藤棚は荒れていた。さゆりが見たら悲しむだろう。




さゆりは何処に…。




その時、
薄紫の花びらが舞い上がる。
人形の回りに紫の花びらが集まっていく。




『あっち…。早く…。』





「お前…。」






『助けて…。』






緑の疾風は風に舞う花びらを追っていく。
さゆりの元へ。






学園の屋上から再び…。





「くそっ!」





鋭い五感が捉えたのは…。
禍々しい空気。






方角は…。






坂木神社。






直ぐ側にいたのに自ら離れた。





緑の疾風は更に速度を上げる。
体液が落ちる。命の水が落ちるのも…。
構わず飛び上がる。






人混みを避けて走る。






さゆり…。さゆり…。さゆり…。






離れたことを後悔した…。