「まさか、その〝生きた人間〟って……」
僅かに、声が震えていた。
「ダスティの本性も知らないで、哀れなほど奴のことを信頼している人々さ」
ぎり、とフェイは歯を食い縛る。
何の罪もない国民にまで、手を出したというのか!
「さあ、フェイ・ブランデル、君はどうする?」
パチン、とセリシアはフィンガースナップをする。
刹那――彼女の後ろで控えていた黒猫が霧となり、そして、大型の鴉(からす)へと姿を変えた。
黒猫同様、鴉の瞳もオッドアイだ。
セリシアは鴉の背中へと飛び乗る。
「僕を捕まえようと追いかけるか、それともアウリスの人々を助けに行くか。…まあ、訊くだけ無駄だね。だって君は、人が好(い)いもの」
ぎゅっと握り拳に力を込める。
此処で双子の片割れを逃がしてしまえば、次に出会えるのは、いつか分からない。
それに、もう一人の方――〝Ⅰ(ファースト)〟も見つけ出さなければいけない。
残された日は、たった七日。
けれど、こうしている間にも、アウリスの人々が……。
「フェイ……」
心配そうに、アンネッテが声を掛けた。ゆっくりとフェイは顔を上げる。


