「けれど、フェイやアンネッテに〝ありがとう〟と言われたとき、胸の中で何かを感じた。何かに包みこまれるような……そんな感覚だ」

フェイとアンネッテは、顔を見合わせる。
そしてなぜか二人はにこにことしていた。
くしゃくしゃ、とフェイに頭を撫でられる。

「それはきっと、〝嬉しい〟という気持ちだ」

「嬉しい?」

実感することが、出来なかった。

 人間は嬉しがっているとき、笑う。
 それは今まで他の者を見てきて、そうだと知った。
 だけど、僕は笑ってなんかいない。
 なのに、それを〝嬉しい〟という気持ちだと言えるのだろうか。

「あなたが〝嬉しさ〟を知れて、私は嬉しいわ」

「………」

明るい笑顔を見せるアンネッテに比べ、ディオンは僅かに顔をしかめた。

 ……嬉しいという感情なんて、知らなくていい。

 他の感情なんて、邪魔なだけだ。
 だから、知る必要なんてない。
 いや、知ってはいけない。
 
 ……君も、そう思うだろう――?

胸の内で、ディオンは誰かに呟いた――。