「だ、大丈夫!?」
駆け寄って来たのは、ベビーブルーの髪を持つ、女のエルフ。
ディオンの肩に触れた、その刹那――身の毛がよだった。
感じたことのないその恐ろしい何かに、彼女は咄嗟に腕を引っ込める。
な、何、今の……。
魔力でなければ、妖精や精霊の力でもない。とても、恐ろしいものだった。
「お、おい、ディオン」
フェイも傍へ寄って来ようとする。
「来るな!」
その叫び声に、思わず足を止めた。
ガハッ、とディオンは口から血を吐く。
「血が!」
心配そうに、彼女はディオンの顔を覗き込む。
「え……?」
一瞬見えたディオンの左目は、スカーレットだった。
遮るように手がその目を覆い、まったく見えなくなってしまう。
「……僕は、もう大丈夫だ」
ふらりと立ち上がり、額を押さえていた手を退ける。左目は右目と同じ、サファイアブルーだ。
見間違い、なのかしら……。
けれどさっきは間違いなく、スカーレットだったのに。


