* 一人の騎士は、己を嘲笑う
人間と精霊が互いに一線を引き、調和を保っている世界――ミスティックワールド。
その世界に数多く存在する国々の一つであるアウリスは、人々で賑わう平和な国だった。
「今日も一日問題なし、と」
この国を守る騎士の一人、フェイ・ブランデルは、慣れた手つきで報告書を書き進める。
「フェイさん、夜間の交代が来ました」
「そうか。じゃあ俺はそろそろ帰るとするよ」
深く椅子にかけていた腰を上げ、フェイはその下部に報告書を上に出すように言い、部屋から出て行く。
「お疲れ様です、フェイさん」
ああ、お疲れ、と何度かあいさつを交わし、紺碧(こんぺき)の空の下(もと)、静まり返った街中を歩いて行く。
十六という若さで騎士になり、その実力と才能ゆえに、今では二十一歳でありながらも、他の者たちを上回り、この国一番の騎士となったフェイ。
「それにしても、この国は本当に平和だなあ」
夜空を眺め、その静けさに浸ろうとした矢先、細い路地の方から、誰かが近づいてくることに気付く。
次第に距離が縮まってくるその足音に、緊張が高まる。