「もう一度、弾いておくれ」

何もない所に向かって、そう言う。
きっとそこにグウレイグがいるのだろう。
少しして、綺麗な音色が辺りに流れはじめた。

「他の妖精もいるのか?」

「ああ。何人かのピクシーが踊ったりしている」

「そうか。……やっぱり俺には何も見えないか」

残念、と呟いて、ため息をつく。

「まあ、この綺麗な音色だけでも聴けただけ、まだましだな」

「フェイ」

ん? と振り返った、その刹那。

「――ッ!」

目の前にある、麗しいディオンの顔。
頬に添えられている手の温もりと、唇に感じる、柔らかい何か。驚きのあまり、目を見開けた。

 ――俺、まさかキスされてる?

そう気付いたのは、三秒後のこと。

「お、おおお前、今……!」

うまく喋れない。やたらと、心臓が五月蠅かった。

「僕の力を分けてあげた」

「は?」

フェイは思わず、間抜けな声を出す。