「せっかく気持ち良く寝ていたのに……お前が来たせいで、グウレイグが隠れてしまった」
「グウレイグ――湖に住んでいて、楽器を得意とする妖精のことか。ああ、あの綺麗な音色を出していたのは、グウレイグだったのか」
「なんだ、聞こえていたのか」
「ああ。本当に綺麗な音色だった。精霊使いは、妖精とも親しいのか?」
自ら姿を見せる妖精はしばしばいるが、やはり大半の妖精もまた人間の前では姿を現さない。
「精霊同様、普通に見える。それにしても、お前、意外と妖精に詳しいんだな」
「まあ、元々妖精や精霊には興味があったからな。姿を見てみたいけれど、俺にはそんな力なんてないから、精霊使いが羨ましいよ」
「……羨ましい、か」
刹那――フェイはハッとなる。
そういえば、精霊使いはその特別な力を持っているせいで、狙われているんだった。
ディオンの気持ちも考えないで、俺は――。
「すまない、ディオン」
「別に、僕は何も気にしていないから」
ぱたんと本を閉じる。
立ち上がったディオンは、湖に向かって声を掛ける。
「グウレイグ、この男は悪い奴じゃない。安心していいぞ」
ぽちゃん、と湖面が波立つ。
どうやら、隠れていたグウレイグが湖から出てきたらしい。
けれどフェイには何も見えない。