近寄っても、一向に起きる気配はない。
不覚にも、その麗しき寝顔に見惚れてしまう。気付いたときには、ディオンの頬に触れていた。
「……何してんの」
不機嫌そうな声が聞こえ、ハッと我に返る。
「え、いや、その……お、お前が起きないから、少し抓(つね)ってやろうと思ってだな。決して深い意味があったわけじゃなくて……」
ははは、と苦笑いをしてみせる。
あっそ、とディオンは言うだけだった。
「ところで、どうしてこんな所にお前がいるんだ」
欠伸(あくび)をしながら、ディオンは訊(たず)ねる。
「…この国から出て行かざるを得なくなった」
「だから言っただろう。説得なんて、出来やしないと」
返す言葉が出ない。すると、ディオンは小さなため息を零した。


