人々で賑わう大通りを避け、フェイは物静かな裏道を歩き続ける。
「殺して下さい、か」
本当に、それしか方法はないのだろうか?
せめて命だけでも、助けてあげたいというのに。
いくら剣術の才能を持っていようと、専門外のことでは、所詮無力な自分。
それが一番悔しいことだった。
そんな自分を厭(いと)わしく感じていた、そのとき、どこからか音色が聞こえてくる。
「綺麗な音だ」
僅かに聞こえるメロディーに、無意識のうちに音のする方へと足を進めて行く。
街外れをさらに通り抜け、森の中へ入ろうと、足を止めずに無我夢中に森の奥深くへと入って行った。
そしてついに、森の開(ひら)けた場所に出る。刹那――美しい音色は消えてしまった。
「こんな所があったなんて」
美しい湖が日の光をきらきらと反射している。
穏やかな風は、辺りに生えている草木を優しく揺らしていた。
きょろきょろと辺りを見渡せば、少し先に、見覚えのある人影を見つける。
「ディオン?」
太い幹に背を預け、片手に本を持ちながら、その少年は眠っていた。


