( また、此処に来てくれるわよね? )

グウレイグが言った。
もちろんだよ、と答える。
そのとき、ぽちゃん、と湖面が波立った。

( セヴェールまで、俺が乗せてやろう )

声と共に姿を現したのは、漆黒の水悍馬(ケルピー)だ。

「まだこの湖にいたんだ。ありがとう、助かるよ」

ひんやりとしたその体を、優しく撫でる。

「時間が出来たら、アンネッテも連れて、またセヴェールに行くから」

フェイが言う。

「わかった。僕も時々、二人に会いに行くよ。月に一度は、月の石(ムーンストーン)に僕の力を込め直さないといけないしね」

あ、とフェイは声を漏らす。
そして、首から掛けているペンダントを取り出した。

「これは大切な形見だろう? 返すよ」

ううん、とセリシアは左右に首を振る。

「それは、フェイが持っていていいよ。僕には、ディオンの(サンストーン)があるから」

ディオンの力が込められた、煌々と赤く輝くその石にそっと触れる。そうか、とフェイは言った。

「じゃあ、僕は行くよ」

慣れた手つきで、漆黒のケルピーに乗る。

「ああ。またな、セリシア」

「うん。またね、フェイ」

セリシアはふわりと微笑む。
ケルピーは雄叫びを上げ、走り去って行った。

「……俺もアウリスに戻るか。またハープを聴きに此処へ来るよ、グウレイグ」

( ええ。いつでもいらっしゃい )

「それじゃあな」

ハープの美しいメロディーを聴きながら、フェイは来た道を戻って行った――。



fin.