ゆっくりと瞼を上げると、目に入ったのは辺り一面白に染められた空間。
ズキズキと痛む右目を押さえながら、ディオンは立つ。
まるで浮かんでいるかのような感覚だ。

「此処は、僕とセリシアの精神世界(こころ)の中か。だとしたら、セリシアも……」

呟いたとき、ぐにゃりと一部の空間が歪んだ。
そこから姿を現したセリシアは、ディオンの胸に倒れ込む。

「セリシア、セリシア!」

「……ディオ、ン」

完全にセリシアの体は弱っていた。
優しく、彼女を抱き締める。

「ごめん、セリシア」

その声は震えていた。よく見ると、僅かに肩も震えている。
どうしたの、という声すらも、セリシアは出すことが出来なかった。

「本当は……君の心境が変わっていることに、気付いてた」

あの人間と旅をはじめてから、少しずつだったけれど、セリシアは失った感情を取り戻していった。
それはディオンにとって、嬉しいことだった。

「でも、嫌だったんだ……。ずっと傍にいた君が僕から離れて、あの男のもとへ行くことが、嫌だった」

 何よりも、誰よりも愛しい、僕のセリシア。
 僕以外の誰かに目を向けるなんて、嫌だ。
 
 君は僕の傍にいればいい。
 そうすれば、君は苦しむことも傷つくことも、ないのだから。