「このまま僕を取り込んで……精神(心)を本体(からだ)の中に戻すつもりか……!」

ディオンは漆黒のワイバーンの中に取り込まれ、一心同体となり、ディオンを取り込んだ漆黒のワイバーンはセリシアと一心同体になる。

まさに双子は、ひとつの存在となるのだ。

「セリシア……」

苦しがっている彼女に手を伸ばすが、届くことはなく、ディオンはワイバーンの中に呑み込まれていった。
ワイバーンの目が、僅かに開(ひら)く。
赤く染まった満月同様に、その瞳は不気味だった。
セリシアはなおも自分の体を抱き締めながら、苦しんでいる。

「他の人間たちの魔力を喰った人工精霊は、力をさらに増している。ああ、本当にヤツは素晴らしい!」

火傷の男が高らかに笑う――と同時に、漆黒のワイバーンは咆哮した。
それは耳が痛むほど、大きなものだった。

再び、ワイバーンの体から手のようなものが伸び出る。
今度はセリシアの体を掴んだ。
ディオンと同じように、セリシアも呑み込まれていく。

 セリシア!

フェイは必死に動こうとするが、さらに強く体を縛りつけられる。

「〝Ⅱ(セカンド)〟の心が未熟すぎるがゆえに、人工精霊は契約者に従おうとしない……」

火傷の男が呟く。クックック、と不気味に笑った。

「漆黒のワイバーンよ、私はお前の生みの親も同然。そんなひ弱な契約者など取り込んでしまい、この私に従いなさい!」

まだ完全に開いていないその瞳を、火傷の男へと向けた。
咆哮し、三人に襲い掛かる。

「なっ……!」

咄嗟に火傷の男は避けたが、ワイバーンの起こした強風に体を飛ばされ、廃家へと勢いよく体当たりしてしまう。
頭から血を流し、そのまま動かない。
どうやら意識を失ったようだ。

「ぎゃあぁぁぁ!」

後ろに控えていた二人の研究員はワイバーンに噛みつかれている。噴き出した血がまるで雨のように、空から降り落ちて来た。フェイとアンネッテの頬に、生温かい血がつく。
アンネッテは目を閉じ、顔を背けた。
魔力を喰われ、干乾(ひから)びた二人の死体が地面に叩きつけられる。

そして僅かに開かれているその不気味な瞳が、フェイとアンネッテに向けられた――。